半径200kmが紡ぐストーリー

テロワールへのこだわり

「テロワール」とは、土地ごとの風土や気候、地形、自然環境が育む食材の個性を指し、その土地に暮らす人々の営みをも含む概念です。

半径200kmはシェフが自ら産地に赴き、生産者の方々の想いを受け継ぎ、みなさまにお届けできる距離。

季節ごとに変わる多彩な料理を味わいながら、その土地の恵みや人々の努力に思いを馳せてもらえるように。

「土地の声」ともいえる物語を壊さず、次世代に手渡すことの大切さが、一皿の料理からでも伝わるように。

私たちのこの選択が、未来への贈り物となるように。

テロワールへのこだわりを一皿に込めること、「おいしい」をきっかけに対話を紡いでいくことは、私たちにとって希望の種を蒔くことなのです。

山梨ワインとジビエのマリアージュ

「山梨を食べる」体験を

地域の森林や生態系を反映したジビエ肉は「自然そのものの味」を楽しむ、フランスでも伝統的な食文化です。とりわけワインとのマリアージュは、ジビエの風味を引き立て、より豊かな食体験を楽しむためには欠かせないもの。
ビストロナガミネでは、130年以上の歴史を誇る山梨の老舗ワイナリー「丸藤葡萄酒工業」のルバイヤートワインと、山梨県丹波山村(たばやまむら)の猟師さんから届く本州鹿、その近隣の山の食材を用いて、山梨の「自然」「季節」「文化」を感じられる体験をしていただけるような取り組みを始めました。

丹波山村は、山梨県の東部に位置する自然豊かな村。日本一人口が少ない市町村の一つとしても知られています。多摩川の源流域にあり、東京都心から比較的近いにもかかわらず、雄大な山々と豊かな森林、清流に恵まれた「秘境」のような雰囲気を携えた場所です。
その丹波山村と勝沼市は直線距離で40~50kmと近いため、ごく狭い範囲で山の恵みとジビエ、山梨ワインとのマリアージュを堪能でき、自然環境や文化が織りなす深い味わいを楽しめます。

千葉県館山市のジビエ

獣害を獣益に

東京都市部の食卓を支えている千葉県南房総の田畑は、年々増加する野生動物による農作物の被害に悩まされています。館山市も例外でなく、耕作放棄地では野生動物が繁殖して次の獣害へと繋がっています。

この負の連鎖を食い止めるために、館山市では「館山ジビエセンター」を設立、「獣害を獣益に」を合言葉に、館山ジビエから地域の魅力を発信し、観光や外食産業を盛り上げていこうという取り組みが始まっています。

過疎化が進む日本の中山間地域は、空き家や荒れた里山など課題が山積みですが、都市部で暮らす人々の関心と理解は、本来の里山の風景を次世代にのこすための大きな力になります。
私たちは館山ジビエを利用を通して、その価値と近隣の地域の問題に関心を持ってもらえる一助となりたいと考えています。



山梨・黒富士農場 おいしい卵は健康な鶏から

ビストロナガミネでは、料理に「黒富士農場」の放牧卵を使用しています。食材ひとつひとつにこだわりを持っていますが、その中でも「放牧卵」は料理の核となる大切な存在。鶏たちが自然の中で健康に育つことで生まれる卵の力強い味わいは、大胆でありながら繊細に味を構築するビストロナガミネの料理を、しっかりと支える力を持っています。

鶏が幸せに暮らすために追求してきた特別な卵

1・こだわりの飲み水
山梨県は甲斐市、標高1100mの山懐に「黒富士農場」は位置しています。3000m級の山々に囲まれた自然豊かなロケーションは夏でも非常に涼しく、鶏たちにとっても過ごしやすい環境。農場の上流ではミネラルに富んだ水が湧き、地下水からくみ上げ、ろ過したものを、鶏たちもスタッフの方々も飲み水として愛飲しています。
2・ストレスフリーな飼育環境
大切に受け継がれてきた自然の中、新鮮な空気と日光を浴びながらのびのびと育った鶏たちは、土をつついたり山の斜面を利用した放牧地を走り回ったりと、本来の行動欲求を制限されることなく過ごしています。
3・安全で健康的な飼料
人も安心して食べられるものを鶏にも、という考えのもと五穀菜汁を意識した発酵飼料を自家配合し鶏たちに与えています。腸から元気で健康な体づくりを行い、抗生物質などに頼らない飼育方法を採用しています。

自然・動物・人間が調和した環境から生まれた放牧卵、その一つひとつが豊かな風味と安心感、そして環境への思いやりを届けてくれます。

東京テロワール〜都会と自然の調和〜

いまここでしか出会えない一皿

「天下の台所」として全国各地から食材が集まってきた歴史を持つ東京には、江戸時代から続く独特の食文化が根づいています。都会的なイメージが強い一方、実は約7,000ヘクタールもの農地があり、多摩地域や練馬区などは今でも農業が盛んで、地元の食材も工夫を凝らして活用されてきました。

ビストロナガミネの位置する世田谷区、近隣の狛江市、調布市でも、有機肥料や減農薬栽培を採用し、環境への配慮と安全の両立を目指す農家がたくさんありますが、地産地消で近隣農家の野菜を使う一番の魅力は「距離感」です。
シェフが自ら畑や直売所を訪れ、自分の目で状態を見て仕入れられること、また収穫してから調理までの時間経過が最短ですむこと。
この収穫地と調理場との「最短距離」は、野菜の味を採れたてそのまま、ダイレクトに感じられる最大で不可欠な要素です。

太陽と土の恵み、五感で味わったその瞬間

東京で生まれ育ったシェフは、夏、マダムの実家の畑でもぎたてのトマトを丸かじりした時に感じた、野菜が持っている土地の味の豊潤さから、野菜料理においての距離感の重要性と「地産地消」という言葉の本質に気づきました。

季節ごとの畑の空気、土の匂い、太陽の光、そしてもぎたての野菜の味わい。この一瞬は、自然の恵みがそのまま体に流れ込んでくる感覚そのものです。シェフの喉を潤したトマトの水分、青くさい香りと完熟ならではの甘さと酸味は、もいでから口に入るまでの時間が数秒という、瞬間的で贅沢な体験をもたらしました。

東京のテロワールは、洗練された都会のかげに隠れてしまいがちですが、「自然と歴史、人々の営み」の融合が織りなす独自の文化。少し目を向ければ身近にあるのに、その自然や文化の豊かさに気づきにくい現代社会において、まるでその土地を旅をするように味わう体験は、日常をより豊かなものにしてくれます。

東京においても、「農業と暮らし」「自然と人間」は分断されたものではなく、ひとつなぎであること。
私たちがお届けする一皿の料理から、感じていただけたら幸せです。